2020年4月1日施行の配偶者居住権について
2020-08-17
配偶者居住権が施行されて4ヶ月が経過しました。
2020年4月1日施行の配偶者居住権について
見直してみたいと思います。
【1】内容
「配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、
終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利。」
と定義されます。
また、「配偶者が死亡した時(二次相続)の相続財産にならない権利」です。
【2】活用されるケ-ス
**前提条件**
一戸建住宅に暮らしていた夫婦で考えます。
一人息子は、結婚して両親とは違う場所に住んでいます。
財産の価値は自宅が2000万円。預貯金は3000万円とします。
夫が亡くなり遺言書がないため、法定相続分で分割協議するケ-スです。
(1)配偶者居住権の設定なし
①配偶者が分割協議により相続する財産
自宅2000万円+預貯金500万円=2500万円
②一人息子が分割協議により相続する財産
預貯金2500万円
③配偶者の状況
配偶者は、住む場所はあるものの生活費に不安が生じます。
(2)配偶者居住権の設定あり
仮に自宅価値2000万円の内、配偶者居住権を1000万円とします。
①配偶者が分割協議により相続する財産
配偶者居住権1000万円+預貯金1500万円=2500万円
②一人息子が分割協議により相続する財産
負担付きの所有権1000万円+預貯金1500万円=2500円
③配偶者の状況
配偶者は、住む場所と一定の生活費を確保できます。
【3】配偶者居住件を設定するには
(1)遺言書・遺産分割協議書に明記
被相続人が遺言書などで配偶者に取得させることを記したり、
相続人同士での遺産分割協議により決めたりすることができます。
配偶者居住権の登記を済ませれば、手続きは終了です。
住み続ける期間を「終身」とすると、権利は亡くなるまで続きます。
(2)注意点
遺言で配偶者居住権を配偶者に取得させる場合は『相続させる』ではなく
『遺贈する』という表現を使うことが重要です。
(少ないケ-スですが。)
配偶者がこの配偶者居住権だけは欲しくないと考えた時に、
「遺贈」と書かれていれば、遺贈の一部(配偶者居住権のみ)を放棄可能です。
しかし、「相続させる」と書いてしまうと、一部放棄はできず、
相続放棄するしかありません、当然相続放棄をすると、プラス・マイナスの財産を問わず、
すべての財産を取得できなくなってしまいます。
【4】配偶者居住権は譲渡・売却できない?
相続が発生した時に自宅に住んでいた配偶者にだけ認められる権利のため、
家族を含む第三者に売却できません。
(1)想定される影響
一度設定すると、配偶者は、配偶者居住権を売却できず、住み続けるしかありません。
病気を患って自宅に住み続けるのが難しくなり、老人ホーム等に移ろうと考えても、
自宅を売却して入居費用等を捻出することはできません。
(2)配偶者居住権を消滅させる
配偶者居住権を売却することはできませんが、
存続期間満了前に所有者との合意解除により消滅させ、
対価を受け取ることは可能と解されています。
この場合は譲渡所得として所得税・住民税の課税対象となります。
【5】二次相続において考慮すべき点
一次相続において、配偶者居住権を設定することにより、
二次相続時には、配偶者居住権と配偶者居住権に基づく敷地利用権に
相当する価額分について相続税は課税されません。
結果的に二次相続発生時点で一次相続において負担付きの所有権を
相続した相続人は完全な所有権を取得することになります。
配偶者居住権については制度が複雑なので、専門家へのご相談をお薦めします。
山口会計 山口